治療方法としては、保険が適用される手術が一般的に行われます。手術の方法は眼瞼下垂の状態によって異なりますが、通常はまぶたの付け根に位置する「眼瞼挙筋」を短縮する手術が行われます。手術の費用は医療機関によって異なりますが、保険が適用される場合には、自己負担額が軽減されることがあります。重度の症状や偽下垂がある場合には、手術が必要となることが多いため、専門医による詳細な診断と適切な治療が求められます。
眼瞼挙筋前転法
(眼瞼挙筋短縮術)
眼瞼下垂と診断された場合、最初に推奨される手術方法として挙筋前転法、または眼瞼挙筋短縮術が選ばれることが多いです。この手術は、まぶたの皮膚とその下にある筋肉を切開し、まぶたを持ち上げる力を強化するために筋肉と瞼板を糸で結びつけるという方法です。この手術方法は信州大学病院形成外科の松尾教授によって提唱されたものであり、「松尾式」としても知られています。
通常、健康なまぶたの場合、上眼瞼挙筋と瞼板が密接に結びついており、この連結により筋肉の力がまぶたにしっかりと伝わって、目を開けることができます。しかし、腱膜性眼瞼下垂の症状が現れると、上眼瞼挙筋と瞼板の間に隙間が生じてしまい、筋肉の力が十分に伝わらなくなります。この結果として、まぶたが下がりやすくなり、目を開けるのが困難になります。
挙筋前転法では、まずまぶたの表面にできるだけ目立たない位置に切開線を設定し、そこから手術を進めていきます。手術の際には、上眼瞼挙筋と瞼板をしっかりと縫合し、筋肉の力が直接まぶたに伝わるように結びつけます。これにより、まぶたを開ける力を取り戻し、目が開きやすくなることを目指します。
さらに、手術中にまぶたの皮膚や挙筋に余剰な部分が多いと判断された場合、その余分な組織を切除することもあります。こうした処置により、まぶたの形状を整え、見た目や機能の改善を図ることができます。また、術後の回復も比較的早く、日常生活への早期復帰が可能です。ただし、手術に伴うリスクや術後のケアについても十分に理解しておくことが重要です。
この手術は、特に症状が進行している場合や、視界の確保が難しくなっている場合に強く推奨されます。また、挙筋前転法は日本だけでなく、世界中の多くの医療機関で行われている信頼性の高い手術方法です。個々の症状に応じて手術のアプローチが異なることもあるため、専門医と十分な相談を行い、最適な治療方針を選択することが大切です。
眉毛下皮膚切除法
先天性眼瞼下垂を持って生まれる人の場合、上眼瞼挙筋の機能が極端に低下しているか、あるいは全く機能していないことがあります。このような状態に対して、医師は「筋膜移植法」という手術を用いて治療を行うことが一般的です。この手術は、機能していない上眼瞼挙筋の代わりに、前頭筋を用いてまぶたを引き上げる役割を果たすように設計されています。具体的には、前頭筋と瞼板を固定することで、まぶたを開ける動作を補助し、患者がより自然に目を開けられるようにするのが目的です。
筋膜移植法では、患者の自身の体から筋膜を採取し、その筋膜を移植してまぶたの動きを改善します。これにより、まぶたを持ち上げる力が強化され、目が開けやすくなります。この手術は、特に上眼瞼挙筋が完全に機能を失っている場合に効果的であり、まぶたの開閉を前頭筋で代行することによって、視界を確保し、日常生活の質を向上させることができます。
さらに、この手術の際には、まぶたを開けることを妨げている要因がある場合、それらも併せて処理することがあります。例えば、まぶた周辺に存在する過剰な靭帯や脂肪組織がまぶたの動きを制限している場合、これらの組織を取り除くことで、まぶたがスムーズに動くように調整します。これにより、術後の目の開閉がより自然でスムーズになることが期待されます。
手術後は、患者がまぶたを正常に開閉できるようになるまでに時間がかかることがありますが、多くの場合、時間とともに改善が見られます。また、筋膜移植法は比較的高度な技術を要する手術であるため、術後のケアも重要です。患者は定期的に医師の診察を受け、まぶたの状態を確認しながら適切なアフターケアを行う必要があります。術後の回復期には、目の保護や傷口のケアが特に重要であり、これを怠ると手術の効果が十分に発揮されない可能性があります。
この手術は、先天性眼瞼下垂による視力障害を改善し、患者が日常生活をより快適に過ごせるようにするための有力な治療法です。また、手術による外見の改善も期待できるため、心理的な負担が軽減されることもあります。治療の選択肢として、患者やその家族と十分な相談を行い、最適な方法を選ぶことが重要です。